大切なものは

第 15 話


困った。 ものすごく、困った。

「スザク、ひまわりが綺麗だね」

にっこりほほ笑むルルーシュは幼い頃を思い起こさせるもので、再開する以前の僕の思い描いていた成長したルルーシュそのままで・・・実際に成長したルルーシュとの落差が激しく、ものすごく心を抉られる。
視界にはひまわりもそれを連想させるものも何も無い部屋。彼の視界には僕もこの部屋も映っていないのだろう。ふんわりと柔らかく、優しく笑いながら幻の向日葵を綺麗だという彼を見ているのは辛い。
・・・あの後、謁見の間で目を覚ましたジュリアスはこの状態になっていた。
その場でギアスをかける手もあったが、ジュリアスもルルーシュも逃げ出す可能性が高く、ならばこの大人しい幼少期ルルーシュの精神状態でまずは体の治療をしてから、再度ギアスをかけるということになったのだ。
頭が痛い、ほんとうに、きつい。
ジュリアスと、本来のルルーシュを相手にするより心に刺さる。
はっきり言って傍には居たくない。
だが、一人にすると彼はナナリーを探すため、ふらりといなくなってしまうから監視役が必要だった。皇女であるナナリーを妹と呼び、今は亡き皇族を名乗る人物の傍に、皇帝とビスマルク、スザク以外の人間がいるわけにいかない。そして、母を暗殺された頃となるとスザク以外適任者がいない。だがスザクと二人きりになると脳内がお花畑になり、会話が成立しなくなる。
ルルーシュの治療を担当しているロイドとセシルには、記憶が錯乱しているという事にした。ありもしないひまわり畑の話をし、室内にいるにもかかわらず夏の日差しが眩しく暑いと言うのだから、セシルから見れば錯乱どころではない、ちゃんと医者に見せるべきだと言われたが、原因はどう考えても皇帝のギアスによる記憶の改竄のため、セシルの要望が通される事はなかった。
スザク以外の人間は暗殺者ではないか?と恐れるあまり殻に籠った可能性がある。つまり他人が傍にいれば回復が難しいのでは?と、予想を立てたのはロイドで、面倒事をスザクに押し付けるための方便だと解っていたが、都合がいいので肯定した。

「ナナリーにも見せたいな、この美しい景色を」

眩しいほどの微笑みを浮かべた彼の目には、きっと大輪の花を咲かせたひまわりが映っているのだろう。幼い頃の秘密の場所。あの一面のひまわり畑。目の見えないナナリーは今も見ることが叶わない光景だが、もし彼女の目が開き、三人であのひまわり畑で昔のように笑いあう事が出来たなら。それはとても幸せな夢のような時間だろう。

「・・・そうだね、いつかナナリーと来よう」

そんな未来は訪れない。
叶えてはいけない願いだからこそ、それは美しい夢として胸に残った。

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